振動とダンパーとナイアガラ
たまには、技術的なことも織り交ぜて投稿しないと、僕も鈍ってくるので。
出来るだけ簡単に書こうとは思いますが、専門的な内容、お付き合いください。
厳密に言うと、僕がこれから書くことには多少の間違いがあるのですが、解りやすくするためのアレンジだと思って、専門家の先生は目をつぶってくださいね。
残念なことに、日本は地震国、しかも大地震がどこで発生してもおかしくないという世界有数の地震国です。
僕ら構造設計者は、建物の耐震設計をするときに、地震による影響を力と建物の変形と建物の損傷具合で評価しています。この力がどのくらいになるかを決めるのは、比較的簡単な方程式を解くやり方と、振動解析という、コンピューターでなければ解けない解析で解くやり方があります。
ここで取り上げるのは、振動解析の事。
振動解析は、時間を変数にした方程式を解くことで、変位と速度と加速度で力を求めます。
地震の波形から力を求めるのです。
変位の部分は、いわゆるフックの法則で、バネは力をかけないと伸びないよね、というやつです。
加速度の部分は、有名なニュートンの法則。あのリンゴが落ちるのを見て万有引力(力)を発見したというやつ。
厄介なのが、速度。
速度に抵抗をかけると力になる。ということだけど、解りやすい例で言うと、車のブレーキとかお風呂での遊びとか。
ブレーキを踏むと、ブレーキパットとブレーキディスクがくっついて、摩擦が起きて、速度が落ちますよね。
お風呂の中でバネを引っ張って手を放しても、水の外でやる時よりも速度が落ちますよね。
なので、抵抗が大きくなると、速度が落ちるということになります。
ここで、少し前に世間を騒がせたダンパーの事。
オイルダンパーは、ピストンの中にオイルが入っていて、オイルが流れる抵抗で速度を落とすという装置。
これを検査するとき確認することは、力と速度。
速度って変位と違って目に見えないから、コンピュータ上の数値で確認するしかないのが実情です。
だから、何年も何人もの人の目をかいくぐって来たんだろうなぁ。
これから、どのような対策が取られるかは解らないけど、公的機関での検査は行われるようになると思います。
去年から今年にかけて、静岡県に建設予定の免震建物用にオイルダンパーをメーカと共同開発しました。
普通のダンパーは、変形量60cm、最大速度は150cm/秒なんだけど、静岡のある特定の地域は、東海地震や東南海地震の影響が大きくて、普通のダンパーの限界を超えてしまうため、変形量90cm、最大速度200cm/秒の物を特注し、試作品を作って試験して、建築センターの評定を受けて、大臣認定をもらいました。
普通の免震建物の設計では、装置の試験も不要だし6か月位で大臣認定がもらえるのだけど、この建物は、建築センターとの事前の打ち合わせから1年かかって大臣認定をいただきました。
建築センター発行のビルディングレター誌の今年の8月号に、この建物の評価レポートを掲載していただきましたので、興味のある方はご一読ください。
ダンパーの試験は、アメリカ、ナイアガラの滝のそばのとあるメーカーの試験室。問題となったメーカーではないところ。
コンピューター上に表示される力と速度が第三者によって精度が確認されている事も確認したし、品質が設計で指定したバラツキ範囲内であることも確認した。僕としては、胸を張れるダンパーが作れたと思っています。
海外出張では余り観光などはしないのだけど、ナイアガラの滝まで30分の所にいたら、さすがに試験後ちょっと行きましょうかということでパチリ。
いずれにしても、設計で決める「力」は、法律であれ、難しい計算であれ、人間が決める値なのだけど、実際には、地震の力も風の力も自然が決めることで、人間が決めることでは無いということ。
僕らはこのことを決して忘れてはならない。

