これからの免震構造 その2
あるタワーを設計したお話
タワーに求められること、それは、風揺れを抑えることと耐震性を確保する事です。
この2つは塔状建築物にとって相反する事でもあります。
風揺れを抑えるためにRC構造にすると、塔の最上部での地震応答は地上の3倍くらいになります。
地震力を抑えるために鉄骨造にして建物を軽くすると、風揺れで船酔いを起こすようなことになります。
日本の代表的なタワー、東京スカイツリー(設計:日建設計)は、中心をRC壁のシリンダーとした芯柱制振を採用して地震応答を減らす構造としています。通信用のゲイン頭頂部にはTMD(チューンド・マス・ダンパー)を設置しています。
ゲイン頭頂部は頂部1/5位の部分で、芯柱は下の方にうっすらと見える中心部です。途中で外殻のタワーフレームとオイルダンパーで接続されているのも分かりますね。
羽田空港の管制塔(設計:安井建築設計事務所)は、中間層免震を採用し、RCの塔体に鉄骨造のオペレーション室を乗せています。風揺れを防ぐために、AMD(アクティブ・マス・ダンパー)を設置しています。
Google Mapからの画像ですが、塔体は扁平な円弧を合わせた形、その上に免震構造を載せているのです。この扁平形状の塔体、良く風が吹く方向に円弧面を向けています。奥に見える湾岸線とA滑走路はほぼ平行なので、滑走路と直交するように作られているんですね。滑走路の向きは、強い風が吹く方向を向いているのです。
しかも、円弧が合わさった部分はスリットを切って、乱流を発生させて風揺れを防ぐ工夫をしています。
ちなみに、奥に見える旧管制塔は私の初仕事のプロジェクトでした。地盤の応答解析のデータ整理と鉄骨小梁の計算を担当しました。
このように、タワーの設計は風揺れ対策が不可欠なのです。
この2つのタワーのシステムにそん色ないタワーが作れないか。
そう考えてできたシステムは、
こんな感じです。
中間層免震にしてRC塔体の上に鉄骨のフレームを載せる部分は、羽田管制塔をヒントにしました。
でも、AMDを付けずに風揺れを抑えたい。
AMDはコンピューター制御で風揺れを抑える装置なので、装置コストも大きいしメンテナンス費用も掛かる。設置場所も必要になるのです。
そこで考えたのが、制振ダンパーのレベルを上にあげる事でした。
当然、RCは風揺れをほとんど起こしません。
鉄骨フレームの最上階とRCを直接結べば風揺れを抑えられるし、地震の時も鉄骨フレームとRCシャフトの位相差で大きな効果が出る!
解析した結果、再現期間1年の風で1gal程度となり、AMDやTMDは付けなくても大丈夫という計画になりました。
アイキャッチ画像にふた付きボールペンの写真を使っていますが、個人的にはボールペンの蓋免震と名付けています。
この時は認定ダンパー(減衰コマ)を使いましたが、免震層ではないところに使うダンパーなので、認定外ダンパーでも良いという事になりますよね。
これに気をよくした僕は、位相差制振をもっとやりたい!となり…位相差制振といってもそれほど難しいことではなくて、違う動き方をするものをダンパーで接続すれば、基本的に大きな制振効果が出るという事。
負けてしまいましたが、とあるプロポで提案したのが、もろ、2重管制振(提案したものではなく、草稿レベルのポンチ絵ですが)。
高さや大きさが違うものをダンパーでつなげば、波が打ち消しあって地震や風揺れが減るんですね。
でも、このままでは面白くないので、外周リングに穴を開けちゃおう。軽くもなるし。

こうすれば、外周リングはプレキャスト化できるかも。とか、中心の塔体の風荷重も小さくなるかも。などと考え、簡単な実験。

塔体に見立てたロール紙の芯にビニール紐を割いたやつを付けて、ドライヤーでびゅうん。ぱさぱさとビニール紐が風で揺れます。
外周リングを付けると?

リングが邪魔で紐が揺れないだけじゃなく、塔体とリングの間は無風状態に近いのだと思います。
いろんな面から風が入り込み、中で風がぶつかり合って気圧が上がっているのでは?と感じました。
残念ながら負けてしまったため、これ以上の実験や検証はできませんでしたが、風荷重を小さくするという効果も、風揺れを小さくするという効果も有る構造だと思います。
この実験では、最初、紐をつけすぎて全然紐が揺れませんでした。
という事は、建物に「毛」を生やせば風揺れを抑えられるのかな?と思います。
でも、毛が抜けたらあちこちから苦情が来るので、実現は難しいでしょうね。
でも、どなたか「毛」が生えたビルをやってみたい方、ぜひご連絡ください。
最初の中間層免震+位相差ダンパーのタワーは、風洞実験で風荷重を求めました。今でもそうですが、どこも風洞が空いていなくて、設計期間も短かったのですぐできて安い、イギリスの風洞で実験。
模型は3Dプリンターで作るので、発注して2週間くらいで実験が出来ます。
粗度区分はサイコロではなく、フィンスリットの開閉でコントロールするのでコンピュータ制御で出来ます。
データ処理も早いので、リアルタイムでデータが見れます。
帰国して1週間後には時刻歴データも出てきました。
料金も、旅費など立ち合い費用を含めても安かったと思います。
が、
平均成分の取り方が日本の基準と若干違い、データ処理が大変だったことを思い出します。
この打合せや契約対応なども英語で直接やりましたよ。
CODESIGN STRUCTURES は、経験に基づく構造スキルをベースに、これからも合理的で新しい構造設計に挑戦していきます。
英語対応、海外クライアント応対、構造計画のお手伝い等、少しでも興味を持っていただいた方は、よろしければトップページ、これまでの経歴などご確認ください、訪問よろしくお願いします。

